フォーマルの場にふさわしい着物はなに?着物に礼装はあるのか

昨今では着物を着る人が少なくなったため、着物は特別な場所で着用するものという印象になりがちですが、着物でも洋服と同じようにドレスコードがあります。着用シーンに合わせてスーツやドレスなど変えるように、格式によって着物の種類が変わるものなのです。

着物は昔からのしきたりに加え、昭和に入ってから作られた新しいマナーもあり、洋装のドレスコードよりもむずかしく迷う場面があります。しかし、大人になると改まった場所への出席・招待は多くなるもの。洋装・和装に関わらず、大人の女性のマナーとして、身につけておきたいものですね。

では、フォーマルな場所にふさわしい着物とは、どのようなものなのでしょうか。 いざという時にふさわしい装いで出席するための、和装礼装の基礎知識をみてみましょう。

立場や未婚、既婚で着用する着物は変わる!

礼装の着物は、既婚・未婚で種類が違います。わかりやすいところでは、「振袖」があります。振袖は、成人式に着用することが多いことでもわかりますが、未婚女性の第一礼装です。従って、結納や花嫁のお色直しにも着用します。

反対に、未婚女性が着用するのは、袖の短い着物です。袖丈は、1尺3寸〜4寸(49 cm〜51 cm)が標準とされており、礼服は普段着よりは若干長めにする場合もあります。

普段に着用するものは、現在では未婚・既婚も1尺3寸〜4寸の短い袖丈の着物です。大正〜昭和初期には未婚女性の外出着として小振袖が着用されていました。現在では、卒業式など袴に合わせる着物として着用されています。

礼装、準礼装、略礼装を理解しよう

フォーマルな着物には、礼装・準礼装・略礼装の種類があります。出席する場所や目的の格式によって、着用する着物の種類が変わります。

礼装は、一番上の格式です。結婚式では両親や仲人、喪の席では配偶者や親族が着用します。人生のセレモニーにも礼装が着用されます。結婚式や結納、成人式、卒業や入学、七五三、お宮参りなどです。

家紋の有無、数によっても格式が変わります。第一礼装では五ツ紋、準礼装では三ツ紋、一ツ紋が一般的です。略礼装では紋をつけないで着用しますが、江戸小紋のように紋を入れてはじめて略礼装とする場合もあります。

フォーマルな場にふさわしい「礼装」

黒留袖

黒留袖は、黒の表地で、裾に絵羽模様が描かれた着物です。比翼仕立てとなっており、礼装用の袋帯、白足袋で着付けます。

既婚女性の第一礼装として着用され、必ず五つの家紋が入っています。家紋は白く染め抜く「抜き紋」が一般的ですが、あらかじめ白く抜いてあるところに家紋を描く「石持ち紋」の場合もあります。百貨店等で留袖を購入する婆は石持ち紋が多いのですが、格としては「抜き紋」の方が上なため、こだわる場合は相談すると良いでしょう。

留袖の着用で一番多いのは、結婚式です。花嫁花婿の両親、仲人が着用します。

他にはお宮参りの母親、芸能の世界では襲名や昇進の披露目等での着用がありますが、最近では訪問着や色留袖などを着用する場合も多いようです。

色留袖

留袖でも、黒ではない色がついているものが色留袖です。色といっても、グレーやベージュなどおとなしく上品な色合いが多く、結婚式では両親以外の親族が着用します。こちらも既婚女性の第一礼装です。

第一礼装として五ツ紋を入れるのが一般的ですが、三つ紋、一つ紋にしてフォーマルダウンさせ、ある程度年齢が高い女性の訪問着の代わりとして着用されることもあります。

振袖

未婚女性の第一礼装として着用されるのが、成人式の着物としてもお馴染みの振袖です。昔は訪問着のような裾、胸、肩、袖の絵羽模様でしたが、最近では全体に絵羽模様が描かれた華美なものが一般的となっています。

未婚女性の礼装ですので、成人式の他、卒業式、結納や結婚式のお色直しにも着用されます。振袖には三種類あり、成人式の振袖は中振袖、卒業式の袴に合わせるものは袖が中振袖よりも短い小振袖です。結婚式のお色直しには大振袖が着用され、振袖の中でも最高格にあたります。

しかし、最近では振袖といえば中振袖で、成人式、卒業式も同じ振袖でも構いません。レンタルの場合は、卒業式など袴に合わせる振袖は小振袖が多いようです。

黒喪服

お葬式など喪の席で喪主と親族が着用する着物が黒喪服です。黒の地紋の入っていないものが正式で、必ず白の長襦袢と足袋、黒の名古屋帯を合わせます。喪服の場合は、礼装でも「不幸が重ならないように」という意味で名古屋帯を使用することとなっています。

 

昔は、白の喪服が一般的であり、黒の喪服となったのは明治以降だと言われています。未亡人は、「二夫にまみえず」の意を表すとして白喪服を身につけたそうです。現代でも昔のしきたりが残る地方や職業によって、白の喪服を身につける場合もあります。

礼装の次にフォーマルな着物「準礼装」

訪問着

未婚・既婚に関わらず着用可能な礼服が訪問着です。紋を入れることで準礼装として着用でき、招待される側の結婚式、七五三、お宮参り、入学式や卒業式、パーティーや式典など、汎用性が広いことも特徴です。

結婚式に着用する場合は、吉祥柄や季節の草花の華やかなもの、入学式や卒業式、七五三などはおとなし目の色柄が良いでしょう。パーティーや式典では、主役より目立つ色柄は避けたほうが無難です。フォーマルダウンした一つ紋の色留袖を訪問着の代わりとして着用する場合もあります。

色無地

お茶席に重宝なのが色無地です。紋を入れることで準礼装として着用でき、無紋の訪問着よりも格上となります。

紋を入れる場合は一つ紋が多く、お茶席の場合は抜き入り紋を入れます。刺繍紋でも構いませんが、流派によって違うため、心配な場合はお茶の先生に確認すると良いでしょう。

色無地は、地紋が入っているものが多く、綾子で宝尽くしや四君子の地紋が入っているものは控えめで上品な華やかさがあります。帯や小物で印象を変えることができ、一枚持っていると重宝な着物です。

小紋(江戸小紋)

小紋は通常普段着ですが、江戸小紋は紋を入れることで準礼装として着用できます。もともとは武士の裃に用いられた柄で、細かいものほど上等とされます。紋を入れることで色無地と同格に扱われますが、無紋の場合は小紋と同格です。準礼装として着用する場合は、必ず紋入れが必要となります。

準礼装に次ぐ礼装「略礼装」

無紋の訪問着

無紋の訪問着は、略礼装として扱われます。しかし、最近ではカジュアルな結婚式や卒業式、入学式などにも着用されることが多いようです。

無紋の訪問着は、歌舞伎やクラシックコンサート、オペラなどの観劇、カジュアルなパーティーや食事会など、スーツやワンピースと同格で着用できます。

松竹梅や扇、宝尽くしなどの吉祥柄に金糸銀糸の袋帯を合わせることで、友人や職場の同僚の結婚式にも着用可能となります。

無紋の付け下げ

付け下げは、訪問着と同じように裾や胸、肩、袖に柄が入っていますが、縫い目をまたいだ絵羽模様にはなっていません。反物で売られていて、訪問着よりも若干格下とされています。

しかし、訪問着が華美な礼服に対し、付け下げは落ち着いた上品さがあります。したがって、主役よりも控えめにしたい場合に着用することで、その場にふさわしい上品さを演出できます。

無紋の付け下げは、柄ゆきによってはおしゃれ着よりも少し改まった外出着としても楽しめます。美術館や観劇、コンサート、ランチ会など、着用範囲が広い着物として便利です。

一つ紋を入れることで、お茶席にも着用可能です。

小紋

小紋は通常は普段着ですが、柄の付き方によって略礼装として着用できます。間違いがないのは無紋の江戸小紋です。おとなし目の色や、鮫小紋などの古典を選ぶと失敗しません。帯も、洒落ものの袋帯か、金糸や銀糸が入った織の名古屋帯を合わせると良いでしょう。

また、小紋でも柄ゆきの上下が決まっており、裾や肩、胸に入る柄が決まっている絵羽模様の小紋があります。絵羽小紋と呼ばれるものですが、こちらも略礼装として着用が可能です。

また、飛び小紋といい、柄と柄の間が遠い、無地に近い小紋があります。お茶席に用いられる小紋で、通常の総柄の小紋よりも若干改まった小紋です。

とはいえ、絵羽小紋も、飛び小紋も、正式な場所での着用は控えたほうが無難です。平服指定の結婚披露パーティー、お稽古事の集まり、観劇やコンサートなど、平服よりも若干格上の着物として着用すると良いでしょう。

まとめ

フォーマルな席での着物は、上質な大人の女性として格を上げる効果があります。 TPOに合わせた着物姿はドレスに負けない華やかさがあり、日本の女性を一番美しく魅せる装いではないでしょうか。

難しいと言われるフォーマルな着物ですが、着る機会を増やしていくことでコツを掴めてきます。怖がらずにどんどん色々な着物にチャレンジしてみましょう。