着物姿というのは、やはり華やかな着物や帯に目が行ってしまい、草履やバッグといった小物に関してはそこまで注意が向かないものですが、それぞれの着物の格に応じた草履やバッグを合わせなくてはいけないという装いのルールがあります。
今回は、特に格が高い着物、黒留袖について、最正装に相応しい草履やバッグにはどういったものを合わせれば良いのかということをまとめてみました。黒留袖という着物をよく理解した上で、黒留袖に最も適した草履を選んで、黒黒留袖姿をより華やかなものにしましょう。
黒留袖を着る場面と心得
黒留袖は、結婚式に花嫁花婿の母親が着る着物として広く認識されていますが、既婚婦人の第一礼服とも言われる、非常に格の高い着物です。最も格の高い着物である証として、背中、両袖後、両胸の五か所に家紋を入れるのが決まりで、格式高い、改まった席に相応しい装いとして用いられます。
しかし、黒留袖はどこでも既婚婦人の第一礼服として通用するわけではありません。宮中では黒色は避けるべき色目ということで、黒留袖を祝いごとの席で着用することは出来ません。その代りに、黒留袖と同格の五つ紋付き色留袖が第一礼服として用いられています。叙勲式などで宮中に赴く機会があった場合、第一礼服だからと黒留袖を着用するのは非常に無礼な行為と受け取られてしまうので、必ず五つ紋付きの色留袖で赴くようにしましょう。
草履の構造と基本知識
普段着物とあまり縁のない生活を送っていると、草履の種類や格といったものを知る機会にはあまり恵まれないでしょう。そこで、黒留袖に相応しい草履について解説していく前に一度草履そのものの基本知識についてここで確認しておきましょう。
草履は台と鼻緒の2つから出来ている
草履は靴とは異なり、一つの決まった形をしています。小判型の台に鼻緒と呼ばれる足を引っかけるものが付いたものが草履で、多少の高低差、幅の広さ狭さはあるものの、概ね皆同じ形をしています。
既に草履の形で売られているものもあれば、草履の台と鼻緒と分けた状態で棚に陳列されているものもあります。特に履物専門店では、その人の足にあった草履を見分けるため、草履の台と鼻緒と別々に置かれていることが多いです。そして実際に購入するとなった時にその場で台に鼻緒を付け、足にしっかりフィットするよう調整してくれるのです。
サイズはS、M、Lで表される
草履のサイズは靴のサイズのように 22.5cm、 23cmや 35、 36で表されず、 Sや Mサイズで表されます。これは、草履は靴のように完全に足を靴型の中に入れる履物ではないからです。
草履は、草履の台から足が少しはみ出して履けるぐらいがちょうど良いサイズとされていることもあり、この草履の大きさには大体 22cmぐらいから 23cmぐらいの人の足の大きさが丁度良いという風にしかサイズを定義できないのです。 因みに、 Sは足のサイズが 22cm前後の人向き、 Mサイズは足のサイズが 23cm前後の人向き、 Lは足のサイズが 24cm前後の人向きとなっています。 最近は、 2Lサイズや 3Lサイズなども追加され、大きな足のサイズの人向けの草履の種類も豊富になりました。
かかとが少し出ているのが美しいとされる
靴は、靴の中にしっかり足が入った状態であることが当たり前の履物ですが、着物に合わせる草履は草履の足型に足が全部入っていない状態が丁度良いとされる履物です。 靴の生活に慣れていると、どうしても足型の中に足を全部すっぽり入れたくなってしまうのですが、足の両サイド及びかかと部分から草履の台が見えてしまうのは非常にかっこうが悪いとされています。
足よりも草履の面積が小さく、なんとなく足が草履に乗っているというのが美しい足とみなされます。
草履のサイズは着崩れに関係がある!
草履の方が足よりも小さい方が良いというのは、見た目の問題もありますが、着物の着崩れを防ぐ意味もあるのです。
着物は洋服とは異なり、後の丈は床すれすれか床よりも 5mmほど上がったぐらいに着付けます。床丈のロングドレスをお召しになったことがある方は容易に想像がつくでしょう、どんなに注意していても、丈の長いものを着ているとうっかり裾を踏んでしまうものです。着物は特に後の丈が長めなので、歩くたびに裾を踏んでしまうと着崩れを起こす可能性が高まります。
裾を踏むとはつまり、足と地面、もしくは足と靴の台、草履の台に裾が巻き込まれてサンドウィッチ状態になることで起こります。これを防ぐ手段として考えられたのが、草履のかかとを足よりも内側にするということだったのです。草履のかかとが足のかかとよりも 1、 2cm内側にあることで、裾の巻き込みが起こりにくくなり、その結果、着物の着崩れも起きにくくなるのです。かかとだけではなく、足の両サイドも草履と足の間に 5mmから 1cmほどの差があれば、それだけ裾の巻き込みも起こりにくくなるのです。 草履の台にしっかり足が乗った状態の方が安心感はありますが、それだけ裾を踏みやすくなってしまうということは念頭に置いた方が良いでしょう。
一度裾を踏んでしまうと裾はだらりと長くなってしまうことから、より踏みやすくもなり、とても歩きにくい状態になってしまうのです。
裾を踏まず、かつ美しい着物姿を表現するためにも草履は自分の足よりも気持ち小さめのもの、かかとがはみ出るものを選ぶようにしましょう。
黒留袖にふさわしい草履
草履と一言で言っても、着物のように格の高いものから普段用のものまで色々あります。同じ礼装用でも訪問着に合わせるものと黒留袖に合わせるものは異なります。
ここでは、黒留袖及び色留袖に相応しい草履について、高さや素材の話も含め解説していきます。
台の高さが5cm前後のもの
ハイヒールもそうですが、草履もヒールが高いものほ格式の高い装いに相応しい履物と認識されています。 草履の高さは大体 3cmぐらいのものから 7cmぐらいのものまであり、格式高い黒留袖には 5cm以上のものを合わせるのが相応しいです。特に黒留袖は通常の着物よりも丈を長めに着付ける傾向にあるので、草履はヒールの高いものを用意しておいた方が良いです。
草履を横から見てみると、線のようなものが幾層にもなっていることに気付きます。地層のように草履の台をいくつもいくつも重ねることで高さを出すことから、草履の横側には線のようなものが見えるようになっています。この線を頼りに、草履の高さを測ることも出来、かつては「何枚草履」といって草履の層の枚数を指定することが草履の高さを指定することを意味しました。 因みに、草履の高さには大体 4種類あり、最も低いものが 3cm、次に低いのが 3.6cm、礼装用によく用いられるものの高さが 4、 5cm、最も高いものが 6cmから 7.5cmとなっています。
黒留袖に相応しい草履の高さは 5cm以上と言われています。
台と鼻緒が同じ素材、色であるもの
草履にも色々な種類のものがあり、台と鼻緒の色味が違ったり、素材が違ったりするものが好きという方、さっぱり全部エナメル質が良いという方それぞれいらっしゃいます。 しかし、正式な場では必ずしも自分の好きな履物を履くことが出来るというわけではありません。まず、台と鼻緒の色味や素材が違う草履というのはカジュアルな場で活躍する履物で、格式高い場ではちょっと場違いな装いになってしまう草履なのです。
一般的に草履の台と鼻緒の色や素材が同じものであればあるほどフォーマルな要因が高くなるとされており、最も格式が高い黒留袖には鼻緒から台まで全て同じ素材、色のもので合わせた草履を選ばなくてはいけないのです。 草履の素材は、エナメル、革製、布製、合成皮革がありますが、黒留袖には布製のものを合わせます。
金銀を基調にした格式の高いもの
帯や帯揚げ、帯締めもそうですが、金糸や銀糸が入った豪華なものほど格式が高いとされます。草履も同様で、金糸や銀糸が入った豪華絢爛なものが格式高い履物と認識されます。
つまり、最も格の高い黒留袖に合わせる草履は金糸や銀糸がふんだんに使われた重厚感のある佐賀錦や西陣織(錦織、唐織、綴れ織りなど)の履物が望ましいということです。 エナメル素材のものを合わせることも出来なくはないですが、合わせる場合は必ずゴールドカラーのものを用いましょう。
その他の和装に相応しい草履
黒留袖以外の着物でフォーマルな場に赴く際に、黒留袖で着用する履物を着まわして良いのか、他のルールがあるのか、どんなものを選ぶべきなのかということについて解説していきます。
ここでは特に、未婚女性の第一礼服である振袖、そして訪問着についてそれぞれの着物に合わせる履物についてまとめました。
振袖の場合
振袖も黒留袖とほぼ同格と言って良い、格の高い着物ということで、草履も黒留袖の時と同じようにヒールが高く、鼻緒と台の色素材が同じものを合わせます。但し振袖は黒留袖とは異なり、若者向きの装いなので、足元は重厚感の出る履物ではなく、遊び心のある華やかな履物が望ましいです。そのため、台と鼻緒の色味が多少異なっていても、振袖の色にマッチしていればフォーマル度を落とすということはありません。
黒留袖に合わせる履物は金銀がふんだんに使われた重厚感のあるものが相応しいとされていましたが、振袖に合わせる履物は必ずしも金銀色のものでなくてはいけないということはありません。若い御嬢さんらしく真っ赤な地色に金糸が少し入った草履や色とりどりの刺繍が施された草履なども素敵です。
振袖に合わせる草履の注意点はヒールの高さ( 5cm以上)だけで、あとは振袖の色柄、その他の小物との合わせ具合を見ながら草履の色などを決めると良いでしょう。
訪問着の場合
訪問着は礼装用の着物とはいえ、振袖や黒留袖よりも格が落ちる装いなので、履物もそれに準じた格のものを合わせるようにします。 まず、高さは 4cm前後のものを選び、どんなに高くても 5cmまでのものにしましょう。
素材は幅広く活躍してくれるエナメル質のものを選ばれる方が多く、エナメル質のものであればちょっとした外出から結婚式などのフォーマルな場にまで幅広く対応してくれるので、一つ持っておくと様々なシチュエーションに対応できるのでとても便利です。 色味は、どんな着物にも合わせやすいよう、ベージュやオフホワイトを選んでおくと良いと言われていますが、持っている着物の色味がダーク系であるというのであればシルバー系やねずみ色系、黒色の草履を選んでも良いでしょう。
黒留袖は小物も格式高いもので揃える
黒留袖に合わせる草履は、草履の中でも格の高いものということを述べてきましたが、バッグや末広、帯、帯揚げ、帯締めに関しても全て格の高いもので揃えなくてはいけません。ここでは、バッグ、末広、帯について、どういったものが格の高いものとされているのか、黒留袖に相応しいものはどういったものかということについて解説します。
ハンドバッグは草履とデザインを合わせるとバランスが良い
黒留袖に合わせるバッグは、利休バッグではありません。金糸銀糸がふんだんに使われた豪華な織り布のバッグで、ハンドバッグまたはクラッチバッグを選びます。
黒留袖に合わせる草履もやはり金糸や銀糸がふんだんに使われた織り布のものなので、草履を佐賀錦のものにするのであれば、バッグも佐賀錦の物を、草履を西陣織のものにするのであればバッグも西陣織のものにするなど、織りの種類を合わせると良いでしょう。
可能であれば、同じ色柄の草履とバッグのセットを用いてみましょう。草履とバッグを合わせることで統一感が出て、黒留袖の格をより高めてくれます。
扇は金や銀が一般的
黒留袖には末広と言われる祝儀扇を合わせますが、これはあくまでも飾り扇で、開いて使うものではありません。飾りとして使用するからにはそれなりの華やかさがないとアクセントにならないため、金や銀がふんだんに使われたものが好んで用いられます。 黒留袖に合わせる祝儀扇は、仲骨は黒色のものが一般的で、扇面(地紙)には金箔や銀箔がふんだんに使われたものを使いますが、式の最中に開くことはないので扇面についてはそこまでこだわりを持たなくても良いでしょう。
最も気に掛けるべきところは、常に人目に晒される親骨部分です。親骨部分も仲骨のように黒色のものでももちろん構いませんが、人目に付くことを考え、金彩が施されたものの方がより望ましいです。 親骨の半分以上が金で彩られたもの、黒色の地にシンプルな金彩や銀彩が施されたものなど色々あるので、着る予定の黒留袖、袋帯などとの相性も考えながら末広選びをすると良いでしょう。
帯の柄はおめでたいものを
黒留袖に合わせる帯は袋帯と呼ばれるもので、黒留袖に合わせる帯結びは二重太鼓になります。二重太鼓の帯結びは帯の柄が比較的よく見える結び方なので、帯の柄選びも気を抜けません。
黒留袖に相応しい帯の柄は、やはりお祝いの席に相応しいおめでたい柄行のもので、七宝、亀甲模様、宝尽くし、オシドリ、鳳凰、鶴、松竹梅、富士山、正倉院模様などを選びましょう。 黒留袖の裾柄に合う、格式高い祝儀の柄を持つ袋帯を選んで、黒留袖に合わせるようにすると素敵です。
レンタルなら草履の種類も豊富
黒留袖に合わせる草履が無いという場合は、レンタル店を訪れてみましょう。 レンタル店には黒留袖、袋帯、黒留袖に合わせる小物の種類も豊富に取り揃えられており、草履の種類も豊富に用意があります。 布製の草履も Sサイズから 3Lサイズまでサイズ展開しており、その場で試着して丁度良いサイズの草履を着物のプロと探すことが出来ます。
黒留袖もレンタルする場合は、レンタル予定の黒留袖に相応しい色柄の草履を店員と話し合いながらじっくり吟味出来るので、結婚式当日に草履のことで色々不安に思うことも無くなります。 自分に合った草履が分からないという場合もレンタル店の店員が真摯に対応してくれるので、あっという間に自分に合った草履を見つけることが出来ます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
黒留袖に合わせる小物もやはり格式高いもので揃える必要があり、各小物のフォーマルライン、カジュアルラインを把握しておく必要があるのです。
黒留袖に合わせる草履にしろ帯にしろバッグにしろ、何が黒留袖に相応しいかよく分からなくなってしまったという場合は、レンタル店に足を運んで相談してみましょう。最新の黒留袖事情、黒留袖に合わせるべき小物について詳しい話が聞けるので、参考にしてみて下さい。